
ジャック・ドゥミ監督の1961年フランス作品。フランス西部の港町ナントを舞台に、アヌーク・エーメがキャバレーの踊り子をしながら男の子を育てる女性を演じる。華やかな総レースのボディスーツは、アメリカの雰囲気がする。
withコロナの生活様式によって、多くのイベントが中止を余儀なくされ、旅行の再開もまだ少しずつ、という状況が続いていますが、皆さんはどのように生活を楽しんでいらっしゃいますか。
私は今まで見逃していた作品を中心に、フランスおよびヨーロッパの1960年代の映画を自宅で味わいました。当時の風俗や街の空気がリアルに伝わってきて、ランジェリーのファッションも時代性を感じさせます。
肩ひものないビスチェが活躍
ジャン=リュック・ゴダール、アニエス・ヴァルダ、ジャック・ドゥミといったヌーヴェルヴァーグの代表的な監督作品の中で、目についたのは、肩ひものない、背中が大きく開いたビスチェやボディスーツです。
1960年代といえば世界的にファッションのカジュアル化が進み、下着も自由なデザインが登場してきますが、からだをしっかり補整する50年代の名残もあって、その端境期にあったスタイルといえます。
いくつかの映画に共通していた女性主人公の職業は、キャバレーの踊り子。商売道具としてもプライベートでも、このビスチェを身につけていました。特にゴダールの『女は女である』では、ミッシェル・ルグランの音楽に乗って、後に監督の妻になるアンナ・カリーナが、実に愛らしくキュートに、パリっぽく魅力を振りまきます。赤のリボン通しのトリミングを施した白のビスチェ(寝室のシーンでは確か青のリボン通しのブラとペチコートだった)がぴったり似合っていました。

ジャン=リュック・ゴダール監督の1961年フランス・イタリア作品。
全編通して、赤と青が効果的に使われている。
永遠の白いコットンのネグリジェ
もうひとつはナイトウェアです。『女は女である』の中でも、白いコットンのネグリジェに色柄物のローブを羽織る姿が見られましたが、白いネグリジェで印象的だったのは、スウェーデンの巨匠であるイングマール・ベイルマンの『仮面/ペルソナ』です。

イングマール・ベイルマン監督の1966年スウェーデン作品。
北欧の風土と空気を感じさせる、洗練されたモノクロ映像。ガランとした病室のナイトウェア姿(リヴ・ウルマン)は、映画の最初のほうに出てくる。
この映画は、「分身/ドッペルゲンガー」をテーマにしたもので、失語症に陥ったスター女優と、彼女を看病することになった看護師との交流を描いています。海辺の別荘での2人だけの暮らしの中で、お互いの「仮面」がはがされているというもの。
夜、部屋でお互いの過去を告白するようなシーンでは白のネグリジェ、陽光を浴びながら庭でくつろぐシーンには帽子と黒のラウンジウェアと、モノクロ映像を活かした白と黒の対比がとても美しいものでした。
このように、古い映画を見ることによって、はるか遠い国、そして何十年も昔にも旅することができるのです。

ジャック・ドゥミ監督の1963年フランス作品。
ニースのホテルを舞台に、ジャンヌ・モローがギャンブルの泥沼に誘う女性を演じる。エレガントなスーツの下は、白のビスチェ。

アラン・ロブ=グリエ監督の1963年フランス・イタリア・トルコ作品。
『去年、マリンエバートで』(1961年)の脚本を手がけたアラン・ロブ=グリエの監督デビュー作。モダンでエキゾチックな雰囲気の中で、謎の女主人公の装いも変化する。バルコネットブラとガーターベルト付き ショーツ。
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武田尚子(ジャーナリスト)
インナーウェア専門雑誌の記者を経て、1988年にフリーランスに。以来、ファッション・ライフスタイルトータルの視点から、国内外のランジェリーの動きを見続けている。著書に『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)など。
「パリ国際ランジェリー展」など年2回の海外展示会取材は、既に連続30年以上となる。現在、ライフワークとなる新たな計画を進行中。 http://blog.apparel-web.com/theme/trend/author/inner