糖質の適正なコントロールは未来をも変える!

特集/糖質制限、ホントのところ

先生/山田 悟(北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長)

---- 「1食あたりの糖質を20〜40gに。それさえ守れば、あとは何をお腹いっぱい食べても大丈夫」という「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」。わかりやすく手軽なので、気負わず日々の食事に取り入れることができそうです。では、食後高血糖を防ぐことで、からだはどう変わっていくのでしょうか。「ゆるかな糖質制限・ロカボ」を提唱する山田悟先生にうかがいます。

糖質の適正なコントロールは未来をも変える!

メタボリックドミノの根っこにある糖質過多

コロナ禍をきっかけに、健康への意識も高まりました。特にリモートワークなどによる運動量の減少については多くの人が課題に感じており、いかに健康を増進し、体型を保つか、ということで、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」にも注目が集まっています。

食後高血糖を防ぐこと、血糖値を下げることでもたらされる健康効果はたくさんあります。「メタボリックドミノ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 生活習慣病によって引き起こされるさまざまな症状を、ドミノ倒しのように並べた概念図のことです。実は糖質過多は、このメタボリックドミノのひとつ目のドミノになるものなのです。

「糖質過多」のドミノが倒れると、そこから続く食後高血糖→肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症・脂肪肝のドミノも倒れ、やがて脳卒中、心不全、動脈硬化、がん、と負の連鎖が続いていく…。日本人の死因の上位にあるもののほとんどは、糖質過多による血糖異常から始まっているともいえるのです。

メタボリック、と聞くと、中高年男性の問題と思われがちですが、大切なのは予防です。生活習慣病の根本にある糖質過多という最初のドミノを倒さないようにする「ゆるかな糖質制限・ロカボ」は、すべての年代で意識してほしい健康習慣なのです。

糖質は肌にも骨にも認知症にも関係

糖質を抑えてカロリーはしっかりとる「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」は、10代から高齢者まで、老若男女におすすめです。

私はサッカー選手の長友佑都さんの食事法のアドバイザーも務めていますが、彼のような超一流のアスリートであっても、食後高血糖があり、パフォーマンスに影響を与えていました。ですから、たとえば部活を頑張っている高校生にも、糖質過多や食後高血糖を防ぐことは有効です。

高血糖は、肌の老化にも関わっていますから、特に女性には気になるところでしょう。コラーゲン繊維に余分な糖質がこびりつくことによって起こる「糖化」は、肌をガチガチにして、しなやかさを失わせる原因になります。これは骨でも起こる現象で、骨密度が同じでも、高血糖のある人とない人では、ある人のほうが糖化のために骨がもろくなり、パキン! と骨折しやすくなる、と考えられています。一度たんぱく質にこびりついてしまった糖質は、それ自体が壊れるまでそのままで、取り除く方法はありません。しかし、コラーゲンはたんぱく質のなかでも非常にターンオーバーがゆっくりですので、いかにこびりつかないようにするか、糖化させないか、が重要になってきます。

また、果糖にも注意をしてほしいと思います。ほとんどのフルーツはブドウ糖と果糖が1:1の比率です。そして果糖は、それ自体がダイレクトに中性脂肪に変わります。ブドウ糖が血糖値を上げ、果糖が内臓脂肪になる、脂肪肝をつくる。ダイエットのために朝はフルーツのスムージーだけ、ということを続けていると、カロリー制限をしているので体型的には痩せているけれど、実は非アルコール性脂肪肝になっている、というケースもあります。

妊娠期の女性にも「ゆるやかな糖質制限」はおすすめです。妊娠糖尿病になってしまうと、お母さんも赤ちゃんも危険ですし、赤ちゃんも高血糖になり、将来の糖尿病リスクが高くなります。「ゆるやかな糖質制限」なら、糖質は控えながらカロリー制限はしないので、食後高血糖を予防しつつ、おなかの赤ちゃんはしっかり順調に育ってくれます。

そして更年期。女性ホルモンが減少し、男性と同じように内臓脂肪がつきやすくなりますので、太ったと感じてカロリー制限をしがちですが、それでは必要な皮下脂肪や筋肉まで落ちてしまいます。この年代も、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」によって、健康的に痩せることができます。

さらに、高血糖は認知症にも関係があり、糖尿病は認知症リスクを高めます。糖尿病の人はそうでない人に比べて、血管性認知症の発症リスクを約2.5倍に、アルツハイマー病の発症リスクを約1.5倍に上げるとされています。ですから、認知症予防にも「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」は有効だと期待されます。

40歳以上の3人に2人は食後高血糖をきたしていると考えられています。大切なのは、予防です。食事を変えていくことで、最初のドミノを倒さないようにする。将来のご自身のために、ぜひ「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」を実践していただきたいですね。

----ダイエットに関連して話題にされることが多い糖質制限ですが、それだけでなく、多くの症状と密接に関係していることがわかります。痩せるだけでなく、健康的に長く生きるため、そして美しさのため、適正に糖質とつきあっていきたいものですね。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 山田悟
  • 山田悟 北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。日本糖尿病学会指導医。日本糖尿病学会学術評議員、日本糖尿病療養指導士認定機構広報委員などを務める。『糖質制限食のススメ』『外でいただく“糖質制限食” 奇跡の美食レストラン』『カロリー制限の大罪』『挫折しない緩やかな糖質宣言ダイエット』『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』など多くの著書がある。雑誌やレシピ本の監修も多数手がけている。