前後にも、左右にも。ムチのようにしなる理想の背骨を

特集/美しい姿勢で美しく生きる!

先生/山口正貴(東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士)

---- よい姿勢のときは筋肉を使い、楽な姿勢のときは靭帯を使っている。偏ることなく、こまめに姿勢を変えることが、美しく生きるためには大切です。では、私たちのからだの根本を支えている「背骨」については、どんなことを知っておけばいいのでしょう。理学療法士として「姿勢」が秘める力を発信し続けている山口正貴先生に、意外に知らない背骨の働きをうかがいました。

前後にも、左右にも。ムチのようにしなる理想の背骨を

大黒柱の背骨は、実は健気でかわいそうな存在!?

姿勢について考えるときに、重要なのが、からだの大黒柱である「背骨」です。みなさんは、自分の背骨がどんなふうに動いているか、硬いのか、やわらかいのか、意識したことがあるでしょうか。

背骨には、首の頸椎(けいつい)から腰の腰椎(ようつい)まで、合計23個の関節があります。腕の関節はというと、基本的に肩、ひじ、手首。足の関節は股、ひざ、足首ですから、背骨の関節がいかに多いかがわかります。その23個の関節が、前後・左右に、ムチがしなるようにしなやかに動くのが、背骨が柔軟だということ。リハビリの世界では、このような関節の柔軟性のことを「関節可動域」といいます。

そして、この関節可動域が低下した、つまり動きにくくなったという変化は、手や足と比べると、背骨に関してはなかなか気がつかないものなのです。たとえば、指が曲げにくくなったとか、正座がしにくくなったときは、すぐに気がつきますよね。でも、「あれ、今日はお辞儀の角度がいつもより浅くなってしまうな」と気づく人はほとんどいないはずです。背骨は関節がたくさんあるからこそ、一部が硬くなってしまったとしても、ほかの関節がその動きを補ってくれるので、変化に気づきにくいという特徴をもっています。不調があってもなんとかやり過ごしている、かわいそうな存在なのです。

そして、背骨の小さな変化をそのままにしておくと、そのうち背骨の動きだけではやり過ごせなくなって、手や足など、からだのほかの部分にも不調が広がっていくのです。

やわらかい背骨は、釣り竿のようなイメージ

自分の背骨がしなやかに動いているかどうかをチェックするよい方法があります。まず、立った状態でも座った状態でもよいので、壁に背中と後頭部をつけて寄りかかります。そこから、少しずつ頭を前に倒していきます。背骨のひとつひとつに付いたシールを、一枚一枚はがすようなイメージで、背中から腰へと、ゆっくりと背骨を壁から離していく。途中、シールがベリベリッと一度に何枚もはがれてしまったら、その関節の可動域が少なくなっている=背骨が硬くなっているということです。今度は逆の動きで、からだを起こしていってください。背骨が硬い人は、背中の上のほうがいきなりベタッと壁についてしまいます。

たとえるなら、やわらかい背骨は、釣り竿のようなイメージ。硬い背骨は、物干し竿です。先端に同じ重さのものをぶら下げたとき、釣り竿のようにしなれば持ち上げられても、物干し竿だと、手元にものすごい重さがかかりますよね。それと同じで、背骨が硬いと、からだへの負担も大きくなります。

不調や痛みが出てきたときには、かなり背骨は硬くなっていますから、できればそうなってしまう前に、予防を心がけてください。人は、痛みが出ないと自分の不調に気づかないし、痛みが出たら出たで、からだを動かすのが億劫になるもの。悪循環に陥る前に、意識して背骨のメンテナンスをしましょう。

簡単なのは、歩くときに、腕も後ろに大きく振ること。肩甲骨をはがすくらいのつもりで大きく後ろに動かします。後ろを意識すると背骨がねじれるように動きます。腕を前にいくら大きく振っても、からだはねじれません。ただし、意識しすぎて余計な力を入れてしまうと、前回お話ししたように筋肉に負荷がかかってかえって硬くなってしまうので、後ろに腕を振ったらあとは脱力するのもポイントです。背骨の関節可動域をマックスにしていきましょう!

----からだを支える柱でありながら、日頃あまりかえりみられることのなかった背骨。これからは意識してメンテナンスしていきたいものです。次回は、美しく健やかな姿勢でいるための、安全で効果的なストレッチ方法について教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
  • 山口正貴 撮影/高山浩数
  • 山口正貴 東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士。東京理科大学理学部在学中にぎっくり腰を患い、リハビリテーションに関心をもつ。卒業後、理学療法士の道へ進み、2005年に理学療法士国家資格を取得、東京大学医学部附属病院に入職。2007年より千葉県福祉ふれあいプラザ介護予防トレーニングセンターで予防事業を兼任。腰痛の研究も行っており、2016年の研究論文で日本理学療法士学会の第8回優秀論文表彰で優秀賞を受賞。メディアへの出演多数。著書に『「ねたままストレッチ」で腰痛は治る!』(集英社)、『姿勢の本―疲れない!痛まない!不調にならない!』(さくら舎)、『背骨の医学』(さくら舎)などがある。