意識づけと環境づくりで「座りすぎ」のリスクを解消!

特集/美しい姿勢で美しく生きる!

先生/岡 浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

---- ライフスタイルや働き方の変化によって、1日のほとんどを座って過ごしている私たち。血流や代謝が滞ることで、からだは知らぬ間に健康被害にむしばまれているのです。日々の暮らしの中で「座りすぎ」を解消するには、どうしたらよいのでしょうか。日本における「座りすぎ」研究の第一人者である岡 浩一朗先生に、オフィスで家庭で、簡単にできる対策を教えていただきました。

意識づけと環境づくりで「座りすぎ」のリスクを解消!

こまめに立ち、ふくらはぎと太ももを動かしましょう

「座りすぎ」についての研究を始める前の私は、健康のために「目的地の一駅前で降りて歩きましょう」「エレベーターではなく階段を使いましょう」と、「動くこと」をみなさんに呼びかけていました。今は、「座っている人を立ち上がらせる」ために、さまざまなアプローチを考えています。

「座りすぎ」解消に最も効果的なのは、「頻繁に立ち上がる」ことと、「ちょこまか動く」ことです。理想は30分に1回立ち上がり、3分程度動くこと。物を取りに行ったり、ゴミを捨てに行ったりと、ちょっとした用事を済ますくらいの運動でよいので、足を動かすことがポイントです。30分ごとというと忙しい感じですが、「1時間に6分」よりは「30分に3分」のほうがメリットが大きいことがわかりつつありますので、できるだけこまめに立ち上がり、動きましょう。エネルギー消費量も確実にアップするので、ダイエット効果も期待できます。

立ったついでに、座りすぎ予防の体操で、足の筋トレをするのもおすすめです。

ふくらはぎの筋肉を働かせるには、「かかと上げ運動」。その場でゆっくりと背伸びするように、かかとを上げたり下げたりするだけです。2秒かけて上げ、2秒かけて下げるくらいがちょうどよいでしょう。血流がすぐによくなり、むくみも解消されます。

太ももを刺激する「スクワット運動」は、基本的ではありますが、大きな筋肉を動かすので、いちばん効果があります。椅子から立ち上がったら、2秒かけて軽くしゃがんだ状態まで腰を落とし、また2秒かけて足を伸ばし立ち上がります。ひざを曲げたときに、ひざがつま先よりも前に出ないようにするのがポイントです。「かかと上げ運動」も「クスワット運動」も、5〜10回セットを目安に、少しずつ続けてください。

会議などでどうしても立ち上がれない、という場合は、座った状態でかかとを上げ下げしたり、ひざを曲げ伸ばしするだけでもOK。とにかく同じ姿勢で座り続けることを避け、足を動かしていくことが大切なのです。

スタンディングデスクの導入で「座らない」環境づくりを

「座らない」「座りにくい」環境をつくることも、「座りすぎ」の予防になります。私の研究室では、スタンディングデスクを導入していて、みんな、基本的には立ってデスクワークをしています。椅子もあることはありますが、バランスボールチェアで背もたれのないタイプですので、長く座っていられません。「立ちっぱなしなんて疲れそう…」と思われるかもしれませんが、床にはやわらかなマットを敷いているのでここちいいですし、座りっぱなしでデスクワークをこなした日に比べると、夕方に感じるあのどんよりとした疲れはなく、仕事の後もアクティブに過ごせているという実感があります。

日本では、机にかじりついている=一生懸命取り組んでいる、というイメージがあり、そもそも立ちにくいカルチャーがあります。しかし、海外では、多くの企業でスタンディングデスクが取り入れられていますし、日本でもIT企業など新進的な業界では、積極的に導入されており、社員の健康管理にひと役買っています。立っている状態は、血流や代謝といったからだの面だけでなく、話しかけやすいなどオープンマインドな印象を他者に与えますから、社員同士の会話も増え、会社内のソーシャルキャピタルを上げることにもつながります。

現代に暮らす私たちは、できるだけ動かなくてすむ環境にいます。便利になったこと、楽になったことを、今さら手放すことは難しいでしょう。しかし、「座りすぎ」がもたらす悪影響は知らず知らずのうちに蓄積し、ある日突然、表出します。そして、表出し始めたら、止まりません。それを未然に防ぐためには、意識して立って動くようにするしかないのです。

10年、20年後の健康のために、今すぐ椅子から立ち上がりましょう!

----ステイホーム、リモートワークなど、コロナ禍は“座りすぎ”も加速させました。できるだけこまめに立ち、動けるような環境を作り、せっせと足を動かして、人類史上最も“座りすぎ”なこの時代にあっても、健康な心身をキープしていきましょう!

取材・文/剣持亜弥
  • 岡浩一朗
  • 岡 浩一朗 早稲田大学スポーツ科学学術院教授。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。1999年より早稲田大学人間科学部助手、2001年より日本学術振興会特別研究員(PD)、2004年より東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)介護予防緊急対策室主任を経て、2006年より早稲田大学スポーツ科学学術院に准教授として着任、2012年より現職。
    研究分野は健康行動科学、行動疫学。特に日本人の国民的な運動不足を無理なく解消させる方法を研究テーマにしている。
    近年は“座りすぎ”の健康被害に関する研究の第一人者として注目されており、メディアヘの出演も多い。著書に『座りすぎが寿命を縮める』(大修館書店)、『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』(ダイヤモンド社)がある。