100%の女性に訪れる更年期。その準備と対策

特集/変化するホルモンとともに

先生/吉野一枝(「よしの女性診療所」院長)

100%の女性に訪れる更年期。その準備と対策。

更年期の症状は弱い部分に出る

更年期に関しても間違って広まっていることはあります。更年期といえば、ほてりやのぼせなどの"ホットフラッシュ"が起こると思われがちですが、そんなことはありませんし、私が実際に診察している人のなかでもホットフラッシュを訴える人は半数くらいです。一般的には45歳から55歳と言われる更年期ですが、30代後半で閉経する人もいれば60歳手前でも生理がある人もいたりと、時期には個人差はありますし、症状についても一定ではありません。ただひとつだけ確かなことは、更年期は100%の女性に訪れるということ。誰も避けることはできません。

女性の身にも必ず訪れる更年期ですが、"更年期障害"を起こすのは全員ではありません。その症状の差について考えてみると、40代後半から50代にかけて、仕事をする女性は責任ある立場に立つ人も多く、のしかかるプレッシャーや、親の介護が始まる人、20代で出産をしていればちょうど思春期を迎え子育ての悩みが増えることなど、この時期は周囲でさまざまなことが起こります。抱えているストレスの重さは、更年期症状の程度に比例することが多々あります。

女性ホルモンは別名、健康ホルモンと言われるくらい女性の健康に密接に関わっています。更年期の症状として多くの人に共通するのは、「疲労感」。疲れやすい、すぐに横になりたくなる、眠りが浅くなり疲れがとれないなど。もうひとつは「乾燥」。女性ホルモンのエストロゲンは皮膚を潤す作用もあるので、その分泌が減ると、ドライスキン、ドライアイ、ドライマウス、膣も乾きやすいなどの症状が起こります。ほかにも頭痛や関節のしびれ、知覚過敏、めまいなど、更年期の症状はその人のもっとも弱い部分に出やすいのです。また女性ホルモンの乱れは自律神経失調も引き起こすので、便秘や下痢、のぼせ、動悸などの症状が起こることもあります。

パートナーと対等に話し合える関係を

なかには、ストレスもあまりなく、更年期の症状にも気づかずすっと通り抜ける人もいるのですが、たとえ症状は出ていなくとも骨や血管の状態は如実に変化していますから、骨密度の減少や動脈硬化には気をつけてもらいたいです。40代半ばまでは圧倒的に男性に多い心筋梗塞も、更年期以降急激に女性にも増えるんですよ。

これらを防ぐためには、毎年の検診がとても重要。骨密度は年に1度計り、循環器内科で頸動脈のエコーを撮れば動脈硬化の進行はわかります。症状が出ていないからと安心せず、定期的に検査を受けることが手遅れにならないための対策につながります。

また生活の基礎がきちんと整っているかも、症状の大きさに関係することもあります。バランスのいい食事、食事をとる時間の適切さ、適度な運動習慣があることが大切で、健康的な生活習慣がない人は、この機会に見直す必要があるでしょう。

ここで注意しておきたいのは極端に始めないこと。運動習慣のない人が更年期を迎えて突然思い立ち、運動しなきゃ! と、いきなりハードな運動を始めようとする人もいますが、それは逆効果であり危険です。筋肉量も落ち骨密度も下がるこの時期には、無理をせず、うっすら汗をかく程度の早さを保ちながら、1日1時間くらいウォーキングするのがおすすめです。

また、この時期はパートナーとの関係性も大事ですね。診療所には、更年期に入り妻のきつそうな体調を心配する夫から「婦人科に見てもらったら」と言われてやってくる女性もいれば、更年期の症状で体調が悪くなり寝てると、「いいよな、主婦は気楽で。どうせ仮病だろ」と言われてストレスからさらに症状が悪化した方もいます。子どもやパートナー、親など何かに依存して生きてきた女性が更年期うつに陥る例も多くあります。パートナーと対等に話し合える関係は、短期間に築けるものではありませんが、これから更年期を迎えるという方には、ぜひ意識してほしいですね。

----程度の差や症状を起こす年齢に個人差はありますが、だれもが通る更年期。まだ大丈夫だと他人事に思わず、気づいたときから対策を打つことが大事のようです。
吉野一枝

吉野一枝 「よしの女性診療所」院長、産婦人科医・臨床心理士
高校卒業後、CM制作の会社勤務を経て、29歳の時、医学部受験を志す。32歳で帝京大学医学部へ合格。卒業後は東京大学医学部産科婦人科学教室に入局。 母子愛育会愛育病院、長野赤十字病院等に勤務後、2003年によしの女性診療所を東京都中野区に開院。『40歳からの女性のからだと気持ちの不安をなくす本 』(永岡書店)『母と娘のホルモンLesson』(メディカルトリビューン)など著書多数。

取材・文/大庭典子
イラスト/はまだなぎさ