健康な血管の寿命はなんと100年!

特集/驚くべき血管の役割!

先生/坂井建雄(順天堂大学 教授)

----血管は休むことなくフル回転で働いていることがわかりましたが、こんなに働き者でありながら、ほかの臓器に比べると老化のスピードは遅いのだとか。とはいえ油断は禁物です。血管に異変が生じ、それが進行すると命に関わる病気を招く可能性も......。今から気をつけておくべきポイントを引き続き坂井先生に伺いました。 健康な血管の寿命はなんと100年!

重力の影響を受ける静脈は
筋肉の収縮を使って循環

血管は、心臓から出ていく血液が流れ込む動脈(酸素の運搬)、心臓へ戻る静脈(老廃物の回収)、動脈から枝分かれした毛細血管の3つの部分に分けられます。心臓は、連続的に血液を押し出しているのではなく、ドクッと押し出したら一瞬止まり、再びドクッと押し出すというように、規則正しいリズムで収縮しているため、動脈の壁が鉄パイプのように硬いと流れが不連続になる。だから、ゴムのような弾力で流れを滑らかにしているのです。前回、血液は1分間に5リットルのスピードで全身を巡っているとお話ししましたが、心臓から送り出すときは勢いがあるものの、戻ってくるときは送り出すときほどの勢いはなく、重力の影響を受けやすい。そこで静脈は、筋肉を収縮させて心臓まで血液を戻しているのです。

動脈から枝分かれした毛細血管は、血液が流れるときに少量の水(組織液)があふれる性質があるんです(その量は1分間に約2.5cc)。この水を回収してくれるのが、毛細血管と並ぶように流れているリンパ管です。リンパ管は最終的に静脈につながっているので、あふれた水を回収する過程で細菌などが混入してしまうと、血液によって全身に運ばれてしまう恐れが......。この危険を回避するために、全身のさまざまなところにフィルターとなるリンパ節を設け、細菌やウイルスを取り除いているのです。

適度な運動で筋肉をつけることと
バランスのいい食生活を意識

血液には自動修復システムが備わっているので、例えば血管の壁が壊れても、そこに血小板が張り付いて傷口をふさいでくれます。だから、加齢による機能の低下はあるとはいえ、本来血管というのは100年機能する臓器なのです。でも、なかなかそうはいかないのが現状。気をつけなければいけないのは、血管が硬くなる動脈硬化です。

加齢や生活習慣の乱れによって血管の壁が厚くなったり、脂肪やコレステロールがたまったりすることで血流が悪くなるだけでなく、さらに進行すると石灰分がたまり、ガチガチに固まってしまうこともあるのです。心臓に血液を送る冠状動脈の壁に動脈硬化の病変が起こると心筋梗塞、脳の血管が詰まったり破れたりすると脳卒中、大動脈にプラークというコブができると大動脈瘤(りゅう)、大動脈の壁に裂け目ができ、そこに血液が入り込むことで大動脈が裂ける大動脈解離、というように、さまざまな病気を引き起こすのです。

自分の血管の状態を知りたいと思ったら、血圧を計ってみてください。血圧は、圧が高いほどより勢いよく血液を循環させることができますが、高血圧状態が続くと血管はダメージを受けやすくなるため、血圧が高い人は血管の壁が硬くなっている可能性が高い。高血圧の診断基準は、最高血圧135mmHg以上、もしくは最低血圧が85mmHg以上、またはその両方だった場合。正常範囲内だと血圧を計る必要がないと思いがちですが、定型的に血圧を計り、血管の状態を把握しておくことで病気の予防ができるのです。

血管の壁が硬くなっても、生活習慣を改めることで改善することもわかってきています。適度な運動を習慣にして筋肉をつけたり、規則正しく、バランスのいい食事を心がけ、脂肪やコレステロールをためないようにしましょう。皮膚の血管が緩むだけでなく、重力の影響で戻りにくい血液が水圧によって心臓に戻りやすくなり、むくみを解消してくれるという点からも、シャワーだけではなく湯船につかることをおすすめしています。

----女性の血管は、女性ホルモンのエストロゲンが減少すると、コレステロール値や血圧が上昇しやすいということも頭に入れておきたいところ。次回は、毛細血管が消えてしまう(!)ゴースト血管について解説します。
坂井建雄

坂井建雄 順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学 教授。日本医史学会理事長。専門は解剖学と腎臓の細胞生物学。『面白くて眠れなくなる人体』『面白くて眠れなくなる解剖学』(ともにPHP研究所)、『想定外の人体解剖学』(エイ出版社)など著書多数。

取材・文/山崎潤子
イラスト/はまだなぎさ