理想の睡眠とは?

特集/眠りの真実

先生/古賀良彦(杏林大学名誉教授)

----心とからだ、そして肌にとってもベストな状態をキープするには、ぐっすり眠ることが必要不可欠だと感覚的にわかっているけれど、仕事や育児に忙殺されると睡眠時間を削らざるを得ないのが現状です。忙しい人ほど睡眠不足になりがちですが、欧米では最近、睡眠を優先していることをカミングアウトする経営者が増えているのだとか。食事や運動同様、睡眠にももっと気を使うべきだと話すのは、睡眠障害と関連の深いうつ病などの治療に長年従事している古賀良彦先生。まずは、睡眠の役割を再確認するところから始めましょう。

2種類の睡眠が脳を活性化し、
健康を維持してくれる

みなさんご存知だと思いますが、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。私たちは日中さまざまな情報を受け取っていますが、すべて記憶することはできません。脳に入ってきた情報を睡眠時に整理して、必要なものだけを記憶としてとどめるのがレム睡眠。からだは弛緩しているけれど、脳は動いているため眠りは浅くなります。急速な眼球運動を伴い、目がキョロキョロ動くのも特徴。

ノンレム睡眠は、寝返りを打つなどからだはある程度動かせますが、脳は休んでいるので眠りは深くなります。疲労回復や傷んだ組織の修復を行う成長ホルモンが分泌されるのも、ノンレム睡眠の特徴です。

睡眠にはパターンがあり、まずはノンレム睡眠が出現。30〜60分で非常に深い眠りに入るのですが、このとき分泌されるのが成長ホルモンです。その後、徐々に眠りが浅くなり、10〜20分程度のレム睡眠へと移行。およそ90分周期でノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、これを4〜5回繰り返したノンレム睡眠80%、レム睡眠20%が理想の睡眠です。明け方近くになるとノンレム睡眠は浅く短く、レム睡眠は長くなって覚醒へと向かうため、レム睡眠が終わったタイミングで目が覚めると熟睡感を得られるのです。

ストレスの原因が睡眠であることを
認識していないのが問題

睡眠時間が短くなると記憶力が低下したり、イライラしたりするだけでなく、成長ホルモンの分泌が抑制されたり、免疫物質の働きが弱くなるため免疫力も低下することがわかっています。理想的な睡眠時間は、7時間寝る人は死亡率が低いというデータから7時間だと言われていますが、仕事や子育てに忙しい女性たちをみてみると、平均は7時間以下が多いのではないでしょうか。とはいえ、極端に少ないわけではなく、常にちょっと足りない人が圧倒的で、この状態を「かくれ不眠」と名付けてアンケート調査をしてみると、ストレスが溜まりやすい、仕事が思うようにはかどらない、引きこもりやすい、などの結果が出ました。ここで問題なのは、原因が睡眠にあるとは思っていないこと。

夜になると眠くなる体内機構と、疲れたら眠るという恒常性維持機構によって人間の睡眠はコントロールされていますが、脳やからだがいくら疲れていても睡眠スイッチは自動的に入りません。「疲れたから寝る」というように、睡眠を意識して能動的にスイッチを入れなければ、睡眠の質を上げることはできないのです。睡眠へのスイッチが自動的に入ると思っているから、睡眠環境を整えようという意識が低いんですよね。食事や運動同様、睡眠にも気を使うようになると、仕事の効率が上がり、からだの不調も改善されるはずです。

----理想の睡眠時間は7時間ですが、ノンレム→レムが交互に訪れて朝を迎えなければ意味がないので、7時間連続で寝ることが大前提。すっきり目覚めるために、レム睡眠を察知してアラームを鳴らしてくれるアプリを活用してみるのもありです。次回は、日々の睡眠の質を高める方法をご紹介します。
古賀良彦

古賀良彦 杏林大学名誉教授。NPO法人日本ブレインヘルス協会理事長。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科学教室を経て杏林大学医学部精神神経科学教室に入室。41年にわたって「脳機能画像の健康科学への応用」を研究。『睡眠と脳の科学』(祥伝社)など著書多数。

取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ