加齢と「こり」の深い関係

特集/なんとかしたい!肩こり

先生/谷 諭(東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科 教授)

----厚生労働省の調べによると、女性が訴える自覚症状で最も多いのが肩こり。スマートフォンやパソコンを長時間使っている、バッグをかける肩はいつも同じ......など、原因に心当たりのある人は多いのではないでしょうか。でも、原因は生活習慣だけではないのです。知っているようで知らない、肩こりのメカニズムを谷 諭先生に解説してもらいました。

肩こりは加齢によって誰にでも起こる現象

運動すると筋肉痛になるように、筋肉をたくさん使ったから肩がこるのかというとその逆で、使っていなくてもこりますよね。それはなぜかというと、肩こりも腰痛も筋肉の緊張からくるもので、緊張が強くなると"痛み"が出るのです。約5キロの頭部を首で支えているわけですから、肩まわりの筋肉は緊張しやすい状態にあるのです。

からだの構造上の問題はもうひとつあります。首の骨は、脊椎(せきつい)と呼ばれる輪っかのような骨が7個重なっています。脊椎と脊椎の間には、クッションの役割りをするゲル状の椎間板(ついかんばん)があるのですが、血管がないため18歳をピークに水分量は低下。緊張しやすいパーツなうえに、年々椎間板の水分量が減る→歳を重ねるほど首がスムーズに動かせなくなる→首の後ろの関節などにストレスがかかる→首から肩まわりの筋肉が緊張し、血流が悪くなる→痛みを発する......という悪循環に陥りやすいのです。子どもは同じ姿勢で長時間ゲームに熱中しても、肩がこるとは言わないですよね。それは椎間板に水分がたっぷりあり、プニプニしているからなのです。

しびれなど、いつもと違う痛みは要注意

肩こりの85%は、誰にでも起こるよくある症状。病気ではありません。実際、肩こりに悩んでいても病院には行かず、マッサージに行ったり、温めたりして自分なりに対処している人がほとんどですよね。気をつけなければいけないのは、関節や神経の病気が潜んでいるかもしれない、残り15%の特異的な肩こりです。

腕を上げると痛いなど、可動域が制限される症状は、四十肩や五十肩の可能性が高い。肩の関節には関節包という袋があり、この中に軟骨や滑膜(かつまく)があることで肩をスムーズに動かすことができるのですが、関節包のまわりの膜が硬くなると腕を上げるだけで痛みが走ります。これがいわゆる四十肩や五十肩で、正式名称は肩関節周囲炎。放っておいて治る場合もありますが、特異的な肩こりなので医師に診察してもらったほうが安心です。

脊椎の輪っかの中には脊髄(せきずい)があり、ここから手にいく神経が出ているため、椎間板が潰れて神経に当たると肩甲骨まわりに痛みが出るのです。肩の後ろから腕にかけて、しびれるような痛みが走ったり指先の動きが鈍くなったら、頚椎(けいつい)の椎間板ヘルニアや頚椎症の疑いがあります。30〜40代の発症率は低いですが、狭心症の関連痛として肩まわりの痛みを訴える人も。これらは放っておくと危険なので、しびれなどいつもと違う症状が出てきたら、整形外科か脳神経外科で診察してもらいましょう。

非特異的な肩こりと特異的な肩こりの線引きができる専門医は、残念ながら少ないのが現状です。整形外科学会下の「日本脊椎脊髄病学会」か、脳神経外科下の「日本脊髄外科学会」の中の指導医、認定医として認められた医師を選べば間違いないでしょう。

----ほぼ100%生活習慣が原因だと思っていたので、加齢によって肩がこるというのはちょっと意外でした。次回は、肩まわりの筋肉を緊張させないための予防策をご紹介します。
谷 諭

谷 諭 東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科 教授。脊椎・脊髄治療の専門医。大学病院として日本一の手術数を誇る同院にて、手術部診療部長を務める。脳神経外科的見地から肩こりの診療も行っている。書著に『テキメン! 腰痛持ちの医者が考えた治療法 85%の肩こり・腰痛は自分で治せます』(マガジンハウス)がある。

取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ