汗自体は無臭!「ニオイ」の真実

特集/いい汗悪い汗

先生/上田由紀子(ニュー上田クリニック 院長)

汗自体は無臭!「汗クサい〜」はウソ?!

乳酸や尿素など、汗には優れた保湿成分が!

暑いときにかく汗、辛いものを食べたときにかく汗など、ひと言で"発汗"といっても、その種類にはさまざまなものがあり、汗の働きは、健康的な生活を送るうえで欠かせないものだということがわかりました。今回は、その成分について教えてもらいます。「汗は天然の美容液」などと聞くこともありますが、その真意とは。今回もニュー上田クリニック院長、上田由紀子先生に教えていただきます。

汗の成分は、99%が水分です。残り1%のなかには、塩分やアミノ酸、乳酸や尿素など、さまざまな成分が含まれています。乳酸や尿素などには、保湿の働きもあります。保湿液にもよく使われる成分ですし、尿素入りと表示の入ったハンドクリームなどは、使ったことのある人も多いでしょう。汗のなかに保湿成分が含まれているということは、適度な汗をかくことは、潤いのある肌をつくるためにも大切なことです。

アトピー性皮膚炎の方などあまり汗をかけないという体質の人は、適度な運動で汗をかくことが大事だと言われる理由もここにあります。汗の成分からナチュラルな保湿成分を補い、皮膚を乾燥の状態から守ることが症状の緩和に繋がることは、医学的にも証明されてきました。また、汗には、免疫力、抵抗力などの作用に関連する、サイトカインが含まれていることが発表されるなど、最近になってわかってきたこともあります。

汗の主成分は水ですから、汗は無色透明、そして汗自体は"無臭"です。にも関わらず、皮膚科に訪れる患者さんのなかで、汗にまつわるトラブルでいちばん多いのは、「汗の臭いが気になるから消したい」という声。汗は無臭のはずなのに、なぜクサいと感じるのでしょうか。

汗クサさは、皮膚の常在菌と汗のミックスでできていた!

汗には2種類あることを前回お話ししましたね。ひとつは、全身に分布し、体温の調整を行うのが主な働きであるエクリン腺から分泌される汗。もうひとつは、特定部位にあり、わきの下や乳輪、外陰部、肛門のまわりなどにあるアポクリン腺から出る汗。この2種のうち、臭いで悩む人が多いのは、アポクリン腺から出る汗です。アポクリン腺は思春期から40代半ばまでがいちばんの活性時期ですから、その頃がもっとも臭いも発生しやすい時期となります。 エクリン汗腺とアポクリン汗腺 汗の臭いといえば、ワキガなどがその代表。繰り返しますが、汗それ自体は無臭です。では、汗の臭いはいったい何が原因となっているのかと申しますと、汗に含まれる水以外の1%の成分が「皮膚常在菌」と反応を起こして、独特な臭気を発しているのです。本来臭わないはずの汗が細菌によって分解され、化学反応を起こし、臭いを発生させています。このことから、汗が臭う場所は菌が多くいることもわかります。

ですから、アポクリン腺のある腋の下や外陰部、肛門のまわりを清潔に保つことは、ニオイへの対策としてまず最初に心がけるべきことでしょう。もちろん、エクリン腺にも菌があれば汗は臭いますから、からだ全体をキレイに保つことは、体臭の原因予防になります。まれにニンニクや香辛料、薬剤などを摂取することで、からだ全体のエクリン汗に臭気を帯びる場合もあります。

これから汗を多くかく季節の到来です。まずは、からだを清潔に保つことが第一ですが、それでも防げないものは、デオドラント剤などで対策を取ることも可能ですし、ワキガは手術でニオイの元を断つ事もできます。次回はさらに詳しく臭いの対策についてお話ししましょう」

夏に大量の汗をかいたときなど、自分の衣服でも「汗クサい〜」と感じるあのニオイは、皮膚の菌が原因。汗自体は無臭だったのですね。ニオイにまつわるトピックスは次回も続きます。
上田由紀子

上田由紀子 ニュー上田クリニック院長、医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。
東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部皮膚科教室にて診療、研究、教育に携わった後、千葉県浦安市にて「ニュー上田クリニック」を開業。01年、国立スポーツ科学センターのオープンに伴い、医学研究部皮膚科を兼任。著書に『スポーツと皮膚』(文光堂)、『ようこそ、これからのSkin Careへ』。野際陽子著『70からはやけっぱち』(KADOKAWA/メディアファクトリー)には、野際氏との対談も収録されている。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/190