生理前のバスト増量、その正体とは?

特集/目ざせ、美バスト!

先生/山口久美子(国立大学法人 東京医科歯科大学
医歯学融合教育支援センター 講師)
取材・文/大庭典子(ライター)

Image

バストと女性ホルモンの密接な関係

女性のからだは、1か月の中でもさまざまに変化します。特に生理前は、気分がすぐれなかったり、からだもむくみがちだったり何かと憂鬱ですが、胸が張ってきて"バストアップ"感を味わえるのだけは唯一のうれしい現象だったりも。そもそも、生理前に胸が大きくなったように感じるのはなぜなのでしょう。引き続き、東京医科歯科大学の山口久美子先生にご登場いただきます。

乳房には子宮と並んで"女性ホルモンに対する感受性"があることが、ほかのからだの部位との大きな違いです。思春期を迎えて女性ホルモンの分泌が始まると、妊娠をしていないときでも乳房は女性ホルモンの影響を受けています。

ちょっと遠回りになりますが、よく知られている子宮の周期の話をしてから乳房の話をしたいと思います。成熟女性の月経周期は平均28日を1周期としてほぼ規則正しく繰り返しています(図1)。子宮内膜の周期的な変化は、卵巣ホルモンであるエストロゲン(図1のグラフの緑の線)とプロゲステロン(図1のグラフの青い線)の変動によってもたらされます。 Image 乳房の周期的な変化に最も影響を与えるのがプロゲステロンです。
プロゲステロンは、排卵後に分泌される女性ホルモンで、水分をからだの中にため込む性質があります。
プロゲステロンが子宮内膜に作用すると受精卵が着床しやすいように水を含んだ浮腫状になります。受精卵は子宮内膜の中に侵入して育つので、子宮内膜をやわらかく厚くし、受精卵が侵入するのを受け入れやすくします。

このプロゲステロンは、子宮だけでなく、乳腺にも働きかけているのです。プロゲステロンが乳腺に働きかけると、乳房も水を貯め込んだ状態に。"乳腺と乳腺の間に水を含んだ浮腫状態"が起きるのです。これがいわゆる生理前の"胸が張った"ように感じる正体。ややうれしさも感じる生理前のバストアップは、水分量が増えた"むくみ"でもあるわけです(笑)。

妊娠していない場合、プロゲステロンは排卵後7日ごろにピークを迎えて徐々に分泌が減少します。子宮内膜や乳腺はその数日後にむくみのピークを迎えます。子宮内膜はその浮腫状の状態を維持できなくなるので、排卵後14日くらいで血液と一緒に体外に排出されます。これが月経です。乳腺は、ちょうど月経が始まる3~4日前から月経開始のころまで最も大きくなり、月経の終了するころには元の大きさにもどります。

思春期から閉経まで。バストはどう変化する?!

生理前の胸の張りですが、20%近く増量するという文献もあります(新外科学体系18 乳房の外科 中山書店)。これは相当な量ですよね。下着のサイズを測りに行く場合でも、自分の月経サイクルをきちんと把握してから、計測したほうがいいと言えるでしょう。生理前のいちばん大きい時期に測った結果、生理が始まってみたら、"ブラに隙間が..."なんて、悲しい事態が起こるかもしれません。

また、女性らしい丸みを帯びたからだをつくる"エストロゲン"という卵巣から出る女性ホルモンも重要。このホルモンは、女性ホルモンの感受性が強い二次性徴(思春期)のころに胸を発達させています。

閉経後は、エストロゲンやプロゲステロンの分泌量が激減してしまうので、乳腺自体は萎縮して小さくなってしまいます。まわりの脂肪も徐々にサイズダウンしていきます。このように思春期から閉経まで、女性ホルモンと乳房には深い関係があるのです

生理前のあの張りがむくみだったとは...! 20%も増量していれば、ブラにも1カップくらいの差が出そうですね。月経周期に合わせて、サイズの合ったブラジャーをそろえるのが美しいバストを保つためにも、いいかもしれません。さて、ここからは番外編。バストにまつわる"都市伝説"のあれこれを山口先生に突撃質問してみました!

Q ブラをして寝るとワイヤーが原因で乳がんになるって本当?
山口先生:初めて聞きました(笑)。根拠はないと思います。ただ、乳がんのリスクは、肥満傾向にある人のほうが高くなるのは事実。太っている人は胸が大きい場合が多いと考えられるので、ワイヤー入りのブラジャーを好み、寝るときもブラをつけなくては不自由なほど"胸の大きい人"が乳がんになる確率が高い、という話ならば、わかりますが...。おそらく伝え聞く間に真ん中がごっそりはしょられて、ブラの"ワイヤー"が乳がんの原因になる、と飛躍したのかもしれませんね。

Q ダイエットの悲しい噂"痩せるときはバストから、リバウンドはおなかから"は本当?
山口先生:これも明確な根拠はないかと。ただし、食事制限などで女性ホルモンのバランスが崩れることによって、胸から痩せてしまうことはあるかもしれません。

Q 背中のお肉が胸になる...って?
山口先生:背中の皮下脂肪が乳房の一部になる、ということですか? これも難しいかと。背中の皮下脂肪は結合組織によって皮膚に止められています。ただ、年齢を重ねると、結合組織がたるんで皮下脂肪がやわらかくなり「垂れて」きます。これによって、ある程度の年齢になれば背中の垂れた皮下脂肪を胸の位置に移動させて矯正下着の中におさめることはできるかもしれません。ただ、脱いだときに乳房にとどまっている、とは考えにくいですね。どこであれ、脂肪をつなぎとめる結合組織が「出入り自由」な構造であれば、そもそもすべての脂肪が下に落ちていくことになります。
Image

山口久美子 東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 講師、医師・医学博士。2000年東京医科歯科大学医学部医学科卒業、2004年同大学院 医歯学総合研究科臨床解剖学分野 修了(医学博士)、2005年より同分野助教を経て2010年より現職に。

イラスト/190