ウォーキングで脳内麻薬が発動!? 心身ともにハッピー体質に!

特集/歩くチカラを見直そう

先生/森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

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うつ病にも効果的なウォーキング

ダイエット効果も期待できるウォーキングは、心臓や骨を丈夫にし、血流も良好に...と、女性にとってうれしすぎるトピックスの数々をご紹介してきましたが、驚くべき効果はまだありました。それは、"ウォーキングが心にも脳にも効く特効薬"だということ。ウォーキングで心が豊かになり、脳も活性化だなんて本当なのでしょうか。今回も引き続き京都大学大学院・森谷敏夫先生にお伺いしました。

「心の健康と運動には、とても密接な関係があるのです。ある実験では、中強度の運動(早足で20分のウォーキングを週に3回程度)を継続している女性は、これより少ない女性よりも、うつ病の発症率が30%も低く、精神健康度が40%も高かった、という結果が出ています。

食欲や性欲など、人間の根源的な意欲を司るのは、脳の視床下部ですが、ここを経て、前頭連合野に走っている神経にドーパミンが放出されると覚醒、快感が引き起こされます。ウォーキングなどの運動をすると、"楽しい!気持ちがいい!"という快感を起こすドーパミンがたくさん出るんですよ。ドーパミンがきちんと出ている人は創造的な発想も感情も豊か。現代人に多い無感動・無関心・無気力の"三無主義"とは真逆の状態ですね。

ドーパミンは辛いことに打ち勝ったときや、ちょっと頑張っているときに出ます。ですから、同じウォーキングでも、少し早足で歩くとか、長い距離を歩いてみるとかが効果的でしょう。"お前さんつらそうだから、ちょっとええのん出したろか"てな具合に(笑)脳内にドーパミンが放出されるのです。ドーパミンがちゃんと出ている人は、人生を楽しみ謳歌している人。私が60歳を過ぎてもなお"今が絶好調"と宣言できるのはウォーキングのお陰かもしれません。

幸せ感を高め、記憶力にも影響する驚きの効果!

そして、ドーパミンが出ると、それが元となり、βエンドルフィンも出ます。これは気分の高揚感、幸せ感が得られる神経伝達物質のこと。βエンドルフィンが1回出ると、がん細胞を抑制してくれるNK細胞の活性を30%以上も上げると言われています。

さらに、最近の研究では、ウォーキングなどの運動をすると、記憶を司る海馬に、脳由来神経栄養因子というたんぱく質を作る前の遺伝子がたくさん出ることもわかりました。これは画期的な発見で、この遺伝子は神経細胞が学習したり記憶したりするのを助けるので、これがたくさん出れば、認知症や記憶力の低下を予防したり、学習能力をキープしたりと、大変ありがたい効果があるのです。私が歩き、走り続ける理由はまさにこれ。いつまでも瑞々しい感性と創造的な脳であるために、ウォーキングは不可欠なのです」

思わずため息がもれてしまうほどの怒涛のウォーキング効果。からだを丈夫にしてくれるだけでなく、心や脳にこんなにもいい影響があるとは驚きです。今日から、アイデアに行き詰まったとき、気持ちをすっきりさせたいときにも、ウォーキングを利用してみてはいかがでしょう。何よりも、人生を謳歌するためにもウォーキングは必要不可欠。ますます歩くのが楽しみになりますね。

次回からは、理学療法士・山口光國先生による、美しいウォーキングとエイジングの関係をお届けします。

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森谷敏夫
(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、PhD)。テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)などを経て、2000年より現職。専門は、応用生理学とスポーツ医学。60歳を超える今も、体脂肪率は驚異の9.8%。明朗快活な人柄も人気で、面白く、ためになる講義は大盛況。著書は『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社新書)など多数。