- ファッション
- 2014.07.31
スペシャルストーリー「私はパンツ」VOL.3 8月2日は #パンツの日

ナツはパンツでゴアイサツ
8月2日 パンツの日オレは、ギフト用に包装されたメンズパンツ。赤面してしまうほどロマンチックなパッケージだが、中にいると単に真っ暗なだけ。今は孤独で寂しいけれど、オレはさっき、パトリシアという女に惚れられた。店員とキャアキャアはしゃいでいて、かわいい女だったな。
オレはどこへ行くのだろう。軽薄な男だけは勘弁してほしい。オレはシンプルな濃いグレーで、フィット感に優れたノーマル丈の働き者。超がつくほど真面目なパンツだから、チャラい男は苦手なのだ。
パトリシアの彼氏がどうしようもない男だったら、その時はその時だ。オレが教育してやろうと決め、眠ることにした。包みを解かれるまで、やることがない。すぐに仕事が始まるかもしれないから、体力を温存しておかなくては。
数時間後、パトリシアが甘えたように男と会話する声で目が覚めた。オレを解放したのはフニャフニャな若い男ではなくほっとする。少し贅肉がついているが、頼りになりそうないい男だ。ヒップラインのたるみは、オレが何とかするから心配するなと励ましてやろう。
8月3日 仕事始め
パットというその男は、外回りの営業に疲れ気味だったが、初日のオレのフィット感を好ましく思ってくれたようだ。パットのクロゼットの中で、オレがいちばんイケてることは間違いない。オレの使命は、このクロゼットを仲間でいっぱいにすること。人間の男は、一度ハマれば同じタイプのパンツを集めたがるものなのだ。
気がかりなことがひとつ。昨日一緒に包まれるはずだったトランクス野郎の行方だ。パトリシアはオレだけでなく、そいつもレジに連れてきた。涼しげにほほえむ、赤と青のシマシマトランクス野郎のエクボを思い出す。
店員とパトリシアが女子トークで盛り上がっている間、どちらがパトリシアの彼氏を喜ばせるか競争しようぜと誓いあったオレとトランクス野郎は、予想に反して別々に包装されたのだった。派手なトランクス野郎は、チャラい男にプレゼントされたのだろうが、だとしたらパトリシアの本命は、パットとチャラ男のどっちなんだ? オレはパットのクロゼットでは王様だが、既に負けているのかもしれない。オレは本命パンツじゃなかったのかも。
そう確信したのは、パットが既婚だったからだ。さっき洗濯かごの中から妻を目撃した。オレが若い女からの贈り物であることを、彼女は知っているのだろうか。今ごろパトリシアは本命のチャラ男とよろしくやっていて、トランクス野郎はパトリシアのセクシーパンツとご対面しているのかもしれないと思うと、何だか悔しい。
8月中旬 夏休み
オレは、脱衣所の竹籠の中でパットを待っているところだ。疲れがたまっているパットに、今日は精一杯つくしてやろうと思う。おっと、ようやくパットが温泉から戻ってきて、体を拭くやいなや、性急にオレをはいた。石けんと硫黄の香りに満ちたパットの肌はつるつるで、オレのほうが癒されてしまう。
脱衣所はパンイチ天国、世の中にはいろんなパンツがいるものだとしみじみする。しかし目ざといオレは、その中に、赤と青のこれみよがしなシマシマを発見してしまった。忘れもしない宿命のライバル、トランクス野郎だ。オレはその尻に、みるみる近づいていく。
オレをはいたパットが、そっちへ向かったのだ。大胆にもパットは、トランクス野郎をはいたチャラ男の背中に声をかけた。
「オヤジ、のぼせてない? 大丈夫?」
振り返ったのはチャラ男ではなく、実直な感じの爺さんだった。瞬間、オレは理解した。この爺さんはパットのパパで、パットはパトリシアのパパなのだと。
パトリシアは、パパと爺さんの2人にパンツを贈ったやさしい女。オレは負けたわけではない、そう思うと全身がキュンと反応して、湯上がりのパットを喜ばせた。爺さんも、速乾性に優れたさわやかなトランクス野郎のおかげで調子が良さそうだ。オレたちは今、レジカウンターで出会った時よりも、ひとまわり成長した互いの姿を、至近距離で確認しあっている。
*パンツストーリー募集!あなたも「私はパンツ」を書いてみませんか?
相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。
最近いいなと思ったのは、映画『私の男』の二階堂ふみさんのパンツ姿。