- ファッション
- 2014.07.31
スペシャルストーリー「私はパンツ」VOL.1 8月2日は #パンツの日

シューカツ・パンツのユーウツ
○月×日 シューカツ30日目あたしは、シューカツ中のパンツ。ランジェリー・ショップでスタッフに励まされながら、デビューの日を心待ちにしている。お客様に見初められれば、とりあえず内定。全員が希望通りに就職できるわけではないけれど、出会いのチャンスは多く、希望に満ちた毎日だ。
ここには、いろんなタイプの子がいる。手堅く就職できるのは、見た目がシンプルな子たち。白い子、黒い子、桃色の子、肌色の子あたりかな。あたしの体には、いろんな色が混じっているから少し不利かもしれないけど、負けたくない。
セクシーな子たちも人気で、いつもレースや刺しゅうを自慢しあっている。あたしにもリボンがついているけど、どちらかというと健康的なイメージ。スケスケのTバックの子とかを見ると、世界が違うなと思う。男の人に買われるのもこの子たちで、彼らがプレゼントする相手が就職先になるのだ。
お店で大事にされるのは、特別な能力をもったエリートたち。ヒップアップの才能があったり、マイナス5歳に見せる魔法が使えたり。あたしだって、はきごこちは悪くないはずだけど、少々トロいから「トロ」って呼ばれている。実力以上に魅力的にディスプレイしてもらっているから、文句は言えないけどね。
○月×日 シューカツ60日目
そろそろ就職先を決めないと、ディスカウントされてしまうかもしれない。志望先のランクは下げたくないから、定価のうちに何とかしなくては。あたしには似たタイプの子がいないから、グループデビューは難しいし、おそろいの柄の姉さんもいないから決め手に欠ける。あ、姉さんっていうのはブラのこと。
今日は、フレッシュな新卒の子たちが店に入荷してきたので焦る。あたしは、自慢のカラフルなボディが美しく見えるように、お客様にアピールした。そしたら、2人連れの女の子が近づいてきて、あたしを手にとったのだった。
「これ、どうかな?」
「えー、ハデでしょ、ありえない」
「まじ? やっぱそう? きゃはは」
あたしはその場に放り出されて、しばらく動けなかった。そうか、あたしって、笑っちゃうほど派手なんだ。ショックだったけど、これからはターゲットをしぼって売り込まなくちゃと思った。実際は、派手な人が意外と地味な子を選んだり、地味な人がびっくりするほどセクシーな子を買ったりするから難しいのだけど。
同期の子たちはどんどん内定を決めていくのに、あたしはまだ。このまま就職浪人なんてことになったらどうしよう。落ち込んでいたら、店長があたしの乱れた姿に気付いて、きれいに直してくれた。「トロ、がんばろうね」と言われて泣きそうになったけど、就職前の体を濡らすことは許されないから、ぐっとがまんした。
○月×日 シューカツ90日目
最近は、うとうと寝てばかりのあたし。しかし今日、目を覚ますと、まわりの空気がすこし違うことに気がついた。熱気を感じる。季節が変わったのだ。
久しぶりに深呼吸して、伸びをする。あたしには、ストレッチ素材が少し入っているから、こうすると気持ちがいい。今日はたくさんお客様がいる。会社も学校もお休みのようだ。
「これだわ!」とふいに元気な声がして、体がふわりと浮くのを感じた。なめらかなブロンズ肌の女性が、あたしの体のあちこちを撫で、細部を観察している。あたしはひと目で、運命の人だと思った。彼女のヒップはきっと居ごこちがよく、やりがいのある職場になるだろう。
こうしてあたしは、明日から、運命の人のバカンスに同伴することになった。彼女は、あたしとよく似た柄のドレスを連れていくつもりだという。姉さんのいないあたしにとっては、嬉しすぎるサプライズだ。ドレスの柄はトロピカルプリントっていうらしいけど、あたしがお店でトロって呼ばれていたのも、もしかしたら、そういう意味だったのかもしれない。
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相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。
最近いいなと思ったのは、映画「私の男」の二階堂ふみさんのパンツ姿。