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美の流儀

2018年2月 7日

語り/三木 学
(文筆家・編集者・色彩研究者・ソフトウェアプランナー他)

HEART

【番外編/学びと美を考える】

「色」「音」で感受性と創造性を高める

「美」をコンセプトにした学びの場、ワコールスタディホール京都と連動した美の流儀【番外編】。今回は、〜オト・イロから感じ取る京都〜をテーマに講座を担当していただく、三木 学さんをご紹介します。 三木 学さん ――三木さんは色彩に関して、これまでどのような活動をされてきたのでしょうか?

文筆家や編集者として、アートやカルチャー、建築などの雑誌に寄稿したり、本を出版したりしてきました。同時にソフトウェア の開発会社に所属しており、そこで画像検索エンジンをつくったこともあります。その画像検索エンジンは「春の赤い花」などといった感覚を取り入れた検索が可能で、ストックフォト(写真素材)などのサービスにも採用されました。

ひと言で「赤い」といっても、色は連続性があるので、すごく赤く感じる赤とそうでもない赤がありますね。色は一般的に、色相、明度、彩度の3次元で表されます。画像検索エンジンの開発過程では、もっとも赤い周辺とそうでもない周辺の3次元空間を定義する必要があり、そこから色彩の勉強を始めました。

また、画像検索エンジンの解析部分を特化して、画像の色彩を分析するソフトもつくりました。画像の中の色名を分析するだけではなく、画像の色を3次元の色空間に分布できるようにしたものです。 3次元色空間の中の日本の伝統色名の分布 3次元色空間の中の日本の伝統色名の分布 この色彩分析ソフトは、日本の主要大学や研究機関、さまざまな企業に導入されました。色彩というのは、特にファッション、景観、プロダクトなどには必須ですからね。

たとえば、ファッションなどで使われる色は多様で、色空間のかなりの部分に広がっていますから、売れている色とそうではない色との相互関係を把握するのは難しいものです。口紅などの化粧品は、細かい範囲に集積しているからなおさらです。しかし、3次元の空間に分布させると一目瞭然です。そこに統計データを組み合わせることで、売れ筋や未来予測さえできるようになります。

このソフトを使って、京都では街並みの景観分析を行ったこともあります。京都が景観に対して意識が高く、さまざまな規制があるのはご存知かと思います。分析では、街並みにおいてどのような色が景観の調和を乱しているか、どのような色にすれば落ち着き、さらに豊かに感じるのか、というような調査や提案をしました。
それらの経験を元に、ソフトの共同開発者であり写真家・著述家でもある多摩美術大学の港 千尋先生と一緒に、本を出しました。フランスの日常風景を分析して、そこに含まれている人々のセンスや法則、無意識を視覚化することを試みた『フランスの色景―色彩と写真を巡る旅』(青幻舎、2014年)です。 左:『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』(青幻舎、2014年)右:『大大阪モダン建築』(青幻舎、2007年) 左:『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』(青幻舎、2014年)
右:『大大阪モダン建築』(青幻舎、2007年)。
ベストセラーになり、大大阪ブームを牽引した。ともに編著。
この本のタイトルに出てくる「色景」とは、色の風景であると同時に、景色に潜む無意識の色のこともさします。「あいちトリエンナーレ2016」では、世界中から集まったアーティストから写真を提供していただいて、オリジナルの色景カラーチャートの作成も行いました。 「あいちトリエンナーレ2016」で作成したアーティストによるカラーチャート 「あいちトリエンナーレ2016」で作成したアーティストによるカラーチャート 現在は、そこからさらに進んで、画像の色から音楽をつくるスライドショーソフトを制作しています。2017年には、写真家、芸術家にこのソフトを用いた作品を委嘱して、京都芸術センターで大規模なスライドショー上映会を開催しました。

――今回の講座「音彩図巻(いんざいずかん) 〜オト・イロから感じ取る京都〜 冬編」では、どのような体験ができるのでしょうか?

色彩に関する知識を学び、それを生かしたワークショップを行います。
まず知識の部分では、ソフトを使いながら、色彩学の基本的な知識をお伝えします。おそらく色名が3次元の色空間の中でどのように分布しているのか理解している人はほとんどいないでしょうが、西洋に由来する学問である色彩学は、色空間の歴史でもあるので、3次元で説明しないとわかりにくいものなのです。

一方で、日本の色彩感覚は「四季彩学」と言えるくらい自然と照応しているので、色彩学的な感覚とは異なっています。古代の日本の色彩観、中国から陰陽五行説などが入ってからの色彩観、そして伝統的な色名など、現在の京都の風景写真などを使いながら解説したり、自分たちで新しい色名をつくってもらったりします。

さらに、目に見える色だけではないアプローチも行います。文字を見たり音を聞いたりすることで、色を感じるなどの「共感覚」と言われる知覚現象を参考にしたものです。約200人にひとり程度、共感覚者は存在すると言われていますが、さまざまなパターンがあり無自覚な方も多いので、正確な数はわかっていません(23人に1人という研究もある)。しかし、色や音など異なる情報が感覚で結びつくことで、記憶力や創造力が高くなると言われています。

ワークショップの部分では、京都の環境音からインスピレーションを得て、みなさんに絵を描いていただきます。環境音から色を感じる共感覚者はいますが、感じる色に正しいとか正しくないとかは特にありませんので、自分の感性で環境音に名付けたり、形をつけたり、色を塗って絵を描いていただきます。

みなさんに描いてもらった絵は、PhotoMusicという専用ソフトで音楽に変換します。このソフトは、赤・橙・黄・緑・青・紫・灰の7色にそれぞれ対応する楽器の音をあてはめることで、みなさんの絵を元に音楽ができるのです。全員の作品を使って、スライドショー動画の鑑賞会をしたいと思います。

暖色が前、寒色が後ろに感じる効果を利用した色彩遠近法という描写法がありますが、色彩と音と連動させることで、絵から音が飛び出してくるように感じられると思います。音から色、色から音の変換を繰り返すことで、感受性や創造性を高めてもらいたいと思っています。 PhotoMusicの操作画面。写真は『フランスの色景』所収の港 千尋さんの作品。PhotoMusicでも監修を担当している。 PhotoMusicの操作画面。写真は『フランスの色景』所収の港千尋さんの作品。PhotoMusicでも監修を担当している。 ――講座に参加した経験が、その後の日常生活や美の感性にどんな変化をもたらしてくれるのか、楽しみです。

私たちの日常生活の中には、聞いていない音、見ていない色、あるいは匂いなどがたくさんあると思います。今回の体験が、無意識だった日常の色や音の豊かさを感じるきっかけになればと思います。

今回、感受性と創造性を高めるために、「名付ける」「図解する」「分ける」「つなげる」という方法で講座を組み立てたいと思っています。
名前があるかどうかで、感受性はかなり変わります。言葉があるかどうかはその文化における関心度と比例していると思うのですが、自分のイメージで色や音に「名付ける」ことで、世界の見え方は大きく変わります。欧米のアーティストたちが、自分で色を開発したり、自分の名前を付けたりすることも偶然ではありません。

また風景の中の要素を「図解」したり、「分けて」いくことで、さまざまな要素が見えてくると思います。アーティストではなくても、日頃、色分けして勉強したり整理したりしますよね? それも感受性を高める方法を自然に使っているといえます。

最後には、分かれていた要素を、再び「つなげ」ます。全く別と思われていた要素をつなげることで、思わぬものが出来上がります。全く別の要素である音と色の組み合わせもそうです。そもそも音色という言葉があるくらいですから、日本語の中には異なる感覚が結びついていることが多いのです。

講座をきっかけに、京都の風景を通して、日本の文化の中に共感覚的な創造性をたくさん発見できるようになれば、自分の創造性も高まっているのではないでしょうか。 三木 学さん

三木 学 文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナー他
奈良県出身。独自のイメージ研究を基にした編集、執筆を行っている。また、環境と感覚の相互作用や、創造の根底になっている感覚や無意識を、色彩や造形、音響から分析し、クリエイターの支援や制作ツールを提供している。
色彩、アート、写真、建築、音楽などに関する著作、寄稿多数。共編著に『フランスの色景』、『大大阪モダン建築』、ヤノベケンジ『ULTRA』(すべて青幻舎)などがある。
画像色解析システム『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社)で「マイクロソフト・イノベーションアワード2008 優秀賞」、「ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009」受賞。「あいちトリエンナーレ2016」コラムプロジェクト『アーティストの虹-色景』ディレクター。音楽自動生成スライドショーシステム『PhotoMusic』ディレクター。
http://photomusic.jp/

ワコールスタディホール京都 三木さんが講師をつとめるスクール講座情報
「音彩図巻(いんざいずかん) 〜オト・イロから感じ取る京都〜 冬編」
2018年2月28日(水) 19:00〜21:00
4,320円(材料費含む、お土産付き)

撮影/合田慎二

※この記事の内容について、株式会社ワコールは監修を行っておりません。
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