トップ 教えて、ドクター! / BODY / FOOD 【特集/現代人のための“菌活”】日本人の魂に宿る"麹菌"のパワー

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教えて、ドクター!

2018年2月14日

先生/中島春紫(明治大学農学部教授)

BODYFOOD

【特集/現代人のための“菌活”】

日本人の魂に宿る"麹菌"のパワー

----味噌や醤油など気づけば常に身近にあった発酵食品の数々。健康にも美容にもいいと言われる理由を探るべく、今回は発酵食品をこよなく愛する農学博士、明治大学農学部教授の中島春紫先生の研究室を訪ねました。奥深い発酵食品の世界へ誘います! 日本にだけ存在する
お味噌汁飲むとホッとする〜
その理由とは?
味噌や醤油、みりん、日本酒など、日本の食文化に欠かせない発酵食品の多くは、"麹菌"と呼ばれるカビからつくられるので、麹菌は日本の発酵食品の醸造には欠かせない微生物なのです。この麹菌、実は日本にしかいないって知っていましたか?

緑色の麹菌に似たカビのなかには、A.フラバスのような、カビ毒をもつ危険なものもいて、東南アジアなどでは「緑色のカビは食べたらヤバいぞ!」と、避けられていました。世界中のなかで、麹菌は日本人にしか飼いならすことができなかった微生物です。

麹菌が普及したからこそ、日本にはこれほどまでに豊かな発酵食品が生まれ、そして和食という文化が誕生したと言えるでしょう。ちなみに麹菌は、日本醸造学会により2006年に"国菌"に選定。文句なしの日本を象徴する菌だということですね(笑)。

しかもこの麹菌は、なんと室町時代にはすでに販売されていたというのだから驚きです。海外旅行に行ったときの「あ〜、帰ったらまずはお味噌汁飲みたい!」というあの感覚は、誰しも経験したことがありますよね。発酵食品特有の、深く複雑な味わいは、私たちの味覚に慣れ親しみ、いつの間にかなくてはならないものとなりました。

ただ、これは日本だけに限った話ではなく、チーズやヨーグルト、バルサミコ酢にナンプラーなど、それぞれの国にはその土地の人になじんだ発酵食品が存在しています。
発酵食品特有のニオイ
好き、嫌いの分かれ道は経験値!?
ところで、みなさんは海外の発酵食品に出合ったとき「クサい...まずそう」と感じたことはありませんか? 逆に外国の人は、納豆を前にしたとき「クサい」と拒絶することがありますね。発酵食品のように特有のニオイをもつ食材をおいしいと感じるには、食の経験が必要なのです。

人間を含め動物の鼻が口のすぐ上についている理由、それは食べもののニオイを嗅いで、自分が食べようとしているものの安全性を確かめているのです。クサいと感じるのは、食べた経験がないと、嗅覚は危険を及ぼすものだと判断して、「おいしくない」「苦手」などの感情と結びついてしまいます。

韓国の人がキムチを毎日繰り返し食べるうちに、キムチなしの食卓なんてありえない! と感じるように、私たちが味噌汁を飲んだときに「ふぅ...」っと息をついてホッとするように、複雑な香りを「おいしい」と感じるには、食の経験が必要だということ。

実は、これは味についても同様で、本来、苦いものは毒のあるものなので、食べてはいけないものです。それでも、経験的に大丈夫とわかると、苦いものでもおいしく口にできるようになります。ゴーヤ(ニガウリ)、コーヒー、ビールなどがよい例ですね。

コーヒーも子供には飲めませんよね。近頃の学生にはビールは苦くて嫌だと言って色つき水(サワー類のこと)ばかり飲んでいる人が多くなりましたが、大人がビールを飲ませてやれば(笑)、そのうちにこれこそ大人の味と、おいしく飲めるようになります。私の研究室にいる学生は、おいしそうに飲んでいますよ。

さて、国菌にまで認定されている麹菌ですが、発酵食品を醸造するうえで、この麹菌というカビを最初に生やすことがなぜいいのでしょうか。

それはデンプンやタンパク質を分解する酵素をつくってくれるからです。

麹は、デンプンを分解して糖に変換してくれるアミラーゼという酵素と、タンパク質をアミノ酸に分解してくれるプロテアーゼという酵素をたくさんつくります。デンプンとタンパク質にはほとんど味がありませんが、糖からは甘みが、アミノ酸からは旨味が出るので、おいしさが増すのです。

この麹菌、美白効果があることでも有名ですね。通常、メラニン色素の沈着が原因で皮膚は黒くなりますが、コウジ酸にはメラニン合成酵素を抑える働きがあることがわかり、今では多くの美白化粧品が開発されています。

日本の発酵食品を知るうえで、もっとも重要な麹菌のこと、わかりましたでしょうか。次回は、今話題の腸内細菌のことをお話します。

----味噌や醤油など日本特有の発酵食品のおいしさを支えているのは、日本にしかいない"麹菌"だったのです。美白にも有効だとあれば、麹菌が微生物の王様と呼ばれるのもうなづけます。私たちが普段使っている発酵食品により愛着がわいてきますね。
中島春紫

中島春紫 1960年東京生まれ。1989年東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻博士課程修了。農学博士。東京工業大学工学部助手、同生命理工学部助手、東京大学大学院農学生命科学研究科助教授、明治大学農学部農芸化学科助教授を経て2007年同教授。現在は、麹菌のタンパク質を研究。発酵食品と酒類をこよなく愛している。著書に『微生物の科学』(日刊工業新聞社)など。新刊書『日本の伝統 発酵の科学』(講談社ブルーバックス)も好評発売中。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ

※この記事の内容について、株式会社ワコールは監修を行っておりません。
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