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カラダやシタギのコトバ 新解釈・連想・妄想コラム

新訳からだ辞典「パンツ一丁」

2016年8月31日

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

HEART

今月のコトバ「スリップ」

今月のコトバ「スリップ」
スリップってなんですか?
「スリップを使ったことありますか?」という昨年のワコール調査によると「ない」と答えた人が43%もいた(「ブラパン」より)。コメント欄には「スリップってなんですか?」「マンガでよく見るけど、周りに聞いても使っている人に出会ったことがない」「祖母はきっちりと着ています」「どういった物なのかとても興味があります!」などの声が並ぶ。若い世代にとって、スリップはもはや、非日常のマニアックな下着という位置づけなのかもしれない。

というわけで、今回のテーマは「スリップ」。先日、初代ポケモン世代にあたる20代前半の子が、ピカチュウしか知らない私に、ポケモンのストーリーや世界観をていねいに解説してくれた。お返しに私は何ができるだろう? スリップの意義や魅力を解説してあげるとか?

大辞泉はスリップをこう定義する。「女性用の下着。ふつう、胸からひざ上までを覆い、ひもで肩からつるす。絹・ナイロンなどの滑りのよい生地でつくる」。
実際にはミニ丈のスリップ、カップ付きのブラ・スリップ、クラシカルな袖つきスリップなどもある。ウイングブランドでは、袖つきスリップを「シミーズ」というようだが、懐かしいと思う人もいるだろう。そう。日本にはかつて、スリップをシミーズと呼んでいた時代があったのだ。
シミーズは滑らない
シミーズの語源はフランス語のシュミーズ(chemise)で、中世以降、近世まで肌着の総称だった。男性用のシミーズがワイシャツへ進化する一方、女性用シミーズはスリップのような形になり、シミーズとスリップの区別が曖昧になったらしい。シミーズの語源は「綿シャツ」で、スリップの語源は「滑る」。シミーズは、必ずしも滑りがいいとは限らないのである。

最近、思わずシミーズと呼びたくなるスリップを目撃した。小池真理子原作の映画『無伴奏』(2015)に登場するレトロなスリップで、1970年前後という時代設定にあわせてつくられたという。主役の成海璃子が、親友2人とともに女子校の教室で制服をいきなり脱ぎ、スリップ姿で「制服反対!」と演説を始める。白のミニ丈で、素材は綿か麻のように見えた。

実際にシミーズという言葉が日本で使われていた痕跡も、歴史の本で見つけた。1978年の流行語「シミチョロ・ルック」だ。この年、スカートの裾からシミーズをちょろっと見せるファッションが流行したのである。このようなスタイルは現在でも応用できそうだが、シミチョロ・ルックというネーミングはどうよ? 言葉というのは、一度古くなると思い切り恥ずかしい。
レトロ化するスリップ
シミーズもスリップも、今の時代にそぐわないのだろうか。しかし冒頭の調査では、スリップを使ったことが「ある」人も過半数だ。「1年中、ベッドに入るときはいつもスリップです」「さらさらすべすべのつけごこちが気持ちよくて好き」「下着が透けない」「涼しくて快適」「女性らしいラインが出て気分的にも色っぽい感じがする」などの声をきくと、断然スリップを着たくなってくる。

一方「キャミソールを着ることのほうが多い」という声も目立つ。確かにキャミソールはミニスリップのようなものだし、ロングキャミソールはスリップのようなもの。おそらく、スリップの需要がなくなったわけではなく、スリップという言葉がレトロ化しているだけなのだろう。

現代のスリップは美しく高価なものも多く、ワンピースの下に下着として着るなんてもったいないなと思う。ある日私は、街を歩いていてふと気付いた。初代ポケモン世代が「スリップドレス」といわれる露出度高めのワンピースを、既に堂々と着こなしているではないか。「スリップってなんですか? スリップドレスなら知ってますけど?」と、しゃらっと言われてしまいそう。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。

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