授乳後のバスト事情とは!?

特集/目ざせ、美バスト!

先生/酒井成身(国際医療福祉大学
三田病院形成外科 教授、医学博士)
取材・文/大庭典子(ライター)

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急な"下垂"、そのワケは...

バストのエイジングでいちばんの悩みである"下垂"は、個人差が大きいこと、そして、それは皮膚の状態の影響も大きく受けていることなどが分かりました。引き続き、三田病院 形成外科教授の酒井成身先生にご登場いただきます。

「女性が特に"下垂"を感じるのは、授乳後です。授乳期に大きく重くなった胸が、授乳を終えると、皮膚が伸びたまま元に戻らず、さらに授乳期の重みによって垂れてしまい、これも元に戻らず、一気に乳房が老け込んでしまう、と悩む方が多いです。

これにも個人差がありまして、乳房が大きいにも関わらず、授乳後、あまり下垂しない人もいますし、その逆もいます。Vol.4で申し上げた皮膚の状態もそうですが、乳腺の多さにも関係があります。一般的に乳腺は乳房のどれくらいの割合を占めていると思いますか? 乳腺は平均で乳房の60~70%も占めているんですよ。少ない人で50%くらいでしょうか。

出産後およそ1年ほどをかけて乳房はもとの大きさに戻っていきますが、やはり乳腺が多い人のほうが、しぼみ方も顕著になります。もともと乳腺組織が少なく、脂肪組織が多いと、授乳後あまり大きさも形も変わらない、という方もいらっしゃいますね。

授乳期に皮膚や乳腺が伸びると、乳房の形を支えているクーパー靭帯も引っ張られて伸びきってしまいます。授乳後に乳腺や皮膚がしぼんでも、一度伸びたクーパー靭帯は、縮むことはありません。私は乳房再建を専門に行っていますが、もちろん、このクーパー靭帯は人工でつくることはできません。

クーパー靭帯は一度伸びると縮まないので、矯正下着などで、下着をつけている間だけバストアップすることはできますが、下着を外してもその位置で安定させるということは、大変難しいと思います。"今夜はイブニングドレスをカッコよく着たい"なんて日に、矯正下着を使って、上向きのバストに見せることは可能でしょう。

Vol.4で、皮膚の薄い人、もち肌の人は垂れやすいとお伝えしましたが、皮膚がやわらかいということは、乳腺組織や脂肪の移動がしやすいということ。矯正下着などは、薄い皮膚の方、またはエイジングによって、乳腺組織や脂肪がやわらかくなった方のほうが有効かと思います。

授乳期にストレスがかかる"陥没乳頭"とは?!

さて、授乳期の乳房の悩みとして、もうひとつ挙げられるのが、陥没乳頭。読んで字のごとく乳首が陥没してしまっている状態です。レベルは軽度の1、中度の2、重度の3と3つに分かれていますが、陥没乳頭は授乳期の母親にも赤ちゃんにも大きな負担がかかります。乳首が陥没しているために赤ちゃんはおっぱいが吸えず、母親は授乳できないので、乳房がパンパンに張ってしまい痛みを感じます。親子両者にとってストレスがかかるのです。

ひとり目の子で陥没乳頭でさんざんな思いをされた方が、ふたり目を妊娠する前に手術に来る、なんてケースもあります。私が開発した"酒井法"では、500例を超えていて、ほとんどが成功して、これは世界でももっとも多い症例数だと言われています。

授乳期でなくても乳頭が陥没しているとアカが詰まってしまったり、ばい菌が入り、逆流してしまって膿が出たなんてケースもありますから、悩まれている方はその手術に慣れた医師に相談してください」

授乳期のバストの悩みは、だれにも相談できずに悩んでいる方も多いよう。バストアップにまつわるあり得ない都市伝説が多いのにも惑わされてしまいます。元には戻らないクーパー靭帯...大切にしたいですね。
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酒井成身 国際医療福祉大学 三田病院形成外科 教授、医学博士。米国ニューヨーク大学形成外科臨床医研修、米国ヴァージニア大学形成外科臨床医研修、前聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院形成外科部長、前聖マリアンナ医科大学形成外科助教授を経て現職に。乳癌術後の乳房再建術をもっとも専門とし、全国で最多の症例を扱う。乳房手術としては豊胸術、乳房縮小術、陥没乳頭修正術など、眼瞼部の手術としては重瞼術、眼瞼下垂修正術、眼瞼しわとり術、義眼床術、顔面しわとり術も手がける。著書の『美容外科基本手術』(南江堂)は、世界でも類を見ない美容外科の教科書として、韓国語や中国語にも翻訳されている。

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